2008年3月28日金曜日

「インスパイアされてオマージュしました…」とは、笑えない表現の話

表現を仕事としているある方のブログを読んでいたところ、次のような一行があった。

 「リスペクトっす」

これだけでは何のことだかよく分からないであろうから、前後の関係を少し説明しよう。
つまり、ブログの中で筆者は歴史を誇るあるブランドの商品を賞賛しているのだが、その賞賛の文章の一部に、有名なコピーが使われている。いくら有名なコピーとはいえ本家があると知らなければそれまでのことだ。

さて、ここで私には
「リスペクト」
の意味がよく分からなくなった。

その理由だが、リスペクトには「尊敬する」という意味と、私らが口語でたまに使う「パクリ」の意味とがあって、この例の場合ではいずれでも意味が通る。

その商品を「賞賛します」の意味と、そこで引用したコピーは「パクリですよ」という意味、この2つだ。

そのブログの主が表現を職業としている方だと分かっているからこそ、余計に私が混乱しているのかもしれない。一般にリスペクトを「パクリ」の意味で理解することは少ないであろうから。

これが切っ掛けで、気になったものだから似たような言葉について辞書的な意味を引いてみた。以下に示す。
引用にあたっては私の適宜判断で全文のうち必要な部分のみを使用している場合がある。なお、各文冒頭のHはHatena、WはWikipediaによる。


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⇒ リスペクト
H
尊敬する(英:動詞)
転じて、本歌取りや、パクリを指すことも。

(私の注記:ちなみに、研究社の新英和中辞典によれば「本歌取りや、パクリ」への転用については一切触れられていない)

⇒ インスパイア
H
霊感を与える 示唆する 喚起する(inspire with)・(思想、感情を)吹込む(inspire in, inspire into)
感激させる 鼓舞する(inspire to)・(激励[感化]して)…させる(inspire to do)
W
英語で「触発する」「霊感を与える」などを意味する動詞。名詞形はインスピレーション(inspiration)。スピリットと同系の語でもある。日本語でも「インスパイアされる」のように用い、「閃きを得る」「閃く」を意味する。また、「何かに刺激を受けて着想を得る」という意味でも使われる。元来は「何かにヒントを得つつオリジナルなものを着想すること」を指す言葉である。日本語慣用句の「瓢箪から駒」に近い意味を持つ。

⇒ カバー
H
他の人の持ち歌を、アレンジを変えたりして歌うこと。またはその歌った歌のこと。変えない場合はコピーといわれる。
他人に提供した楽曲を自分で歌う場合は「セルフカバー」と呼ぶ。
W
音楽用語。過去に他人が録音した曲を演奏して発表すること。
楽曲のカバーとは、ポピュラー音楽の分野で使われる言葉で、過去に他人が録音した曲を演奏して発表することである。

⇒ トリビュート
H
映画・小説の冒頭などに「special thanks」より強い意味で書かれることがある。多大な協力・影響を受けた場合、あるいは故人に対して。
ミュージシャンが、先人の作品に尊敬の念を示し、同じ・あるいはアレンジを変えた曲を演奏、録音すること。「~アルバム」など。その際、「カバー」との差異は、ひとえに「尊敬の念」が示されているかどうかであり、非常に曖昧。
W
他への賞賛として捧げられるもの。トリビュート・アルバム、トリビュート・コンサート、トリビュート・イベントなど。

⇒ パロディ
H
既成の著名な作品また他人の文体・韻律などの特色を一見してわかるように残したまま、全く違った内容を表現して、風刺・滑稽を感じさせるように作り変えた文学作品。日本の本歌取り・狂歌・替え歌などもその例。演劇・音楽・美術にも同様のことが見られる。
W
他の芸術作品を揶揄や風刺、批判する目的を持って模倣した作品、あるいはその手法である。文学や音楽、映画を含めたすべての芸術媒体に、パロディは存在する。替え歌もパロディの一形態である。文化活動もまたパロディの素材となる。軽い冗談半分のパロディは、しばしば口語でスプーフ(spoof)と呼ばれる。

⇒オマージュ
H
芸術家などにささげる敬意。または、そのような敬意を表した作品。またはそのような作品の献呈。
W
リスペクト(尊敬)や敬意のこと。騎士の臣従礼。芸術や文学においては、尊敬する作家や作品に影響を受けて、似たような作品を創作する事。また作品のモチーフを過去作品に求めることも指す。昨今は斬新なアイディアの欠如などから、「オマージュ」と称して過去の作品に頼る場合があったり、デジタル技術により複製精度の向上でオリジナルと変わらない複製も作れるようになった。こうした背景から、しばしば著作権やモラルの問題に上がる(盗作に繋がり易い)。
映画などに於いては、何らかの記念作品の場合、過去の作品に遡り過去の監督などへのメッセージとして映像の一部に古い映画をイメージする部分を挿入する事がある。

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さて、辞書的な解説を求めて調べてみたのだが、実に読み物として興味深い。
例えば「盗作に繋がりやすい(オマージュ)」とか、「カバーとトリビュートの差異が非常に曖昧(トリビュート)」などの記述には妙に納得してしまった。
「オマージュしました」と表現すれば、体裁はいいかもしれないが、しかし、その実は「パクリ」だったりしたのでは困りものだ。



※本稿の切っ掛けとなった某ブログないし筆者に対して、ここで問題を指摘し、評価する意図は一切ないことをお断りしておく。切っ掛けを与えてくれたことに、ひたすら感謝するのみである。
※本稿の後に「リスペクトっす」と指定してGoogle検索したところヒットした。その中でもブログの文中で使用されている例を確認したところ以下のとおりだ。
「(先輩の)△△さん! マジ リスペクトっす」
「Large リスペクトっす」
これらの例のように、おそらく「尊敬っす」の意味で使用されている場合が多いように感じられた。追記しておく。


<おしまい>