2008年3月2日日曜日

ビジネスシーンにおける円滑な人間関係形成のために

人の名前を呼ぶときに使う、あの「○○チャン」ほど、人と人のつながりに深い感動と潤いを与えるものはありません。

だって、どんどん薄くなっていくお父さんの髪の毛とビジネス社会における人間関係ですが、その人間関係を一発でブッ壊して、そしてまた意のままに関係を再構築することができる、そんな言葉の最終兵器って、名前や名字の直後に付ける「チャン」しかない…そう思っていませんか。

お父さんの髪の毛の問題はさておき、そもそも年齢や肩書きから生まれる上下関係に、ことのほかこだわりたがる日本人のこと。
その旧態依然としたこだわりの構図を打破し、終焉を向えた終身雇用制に代表されるようなビジネス社会における新しい枠組みを構築するには、四の五の面倒くさい経済学の原理やそれら史観に立った歴史的検証、各派ご立派な経営学の理論など必要ありません。
士農工商やカーストじゃあるまいし。

名前や名字の後に「チャン」を付ける…、この簡単な作業さえいとわなければその目的たる新しい枠組みを構築を果たすことができます。

さあ、ひろしチャン、あきらチャン、たかしチャン…それらのチャンが、人間関係に及ぼすプラスの効果とはいったい何なのか、チャンの魅力と秘密に迫ってみたいと思います。

さてここで、ハッキリさせておかなければならないことが一つあります。

もうお分かりのとおり、○○チャンの「チャン」って言ったって、ハイハイしたての赤ちゃんを呼んだりするときの、あのチャンじゃあありません。

まして、クラブのママさんが店の女の子に用を言いつけるときに多用する(らしい)、あけみチャン、みどりチャンのチャンでもありません。

学校を卒業して、かつ、立派かどうかは別問題としてイッパシの社会人となり、いわゆる大人として口が利けるようになった…、なって間もない…、なって随分と時間が経つ…、つまりはそうした男性に対してする「チャンづけ」のことを指します。

もっと事を正確に表すのであれば、親兄弟や親戚筋など関わりの濃淡にもよりますが、概ね四親等までの成人男性親族は除くことにします。つまり、場面の具体例としては柔道部か相撲部か応援団か知りませんが、学生時代に「押忍ッ」ないし「オッす」をやっていた、ずいぶんと体格のいいお兄さん対してだって臆することなく付けてしまう、あの必殺技とも言うべき「○○チャン」におけるチャンのことなのです。


【ケーススタディー その1】

では、先ほどの学生さん例で考えてみましょう。

彼には、移り巡る四季をも物ともせず、年がら年中、黒詰襟に身を包みながら、そして上下関係という細くともたった一本の糸で、鉄より堅いと本人とその周囲の特殊な関係者たち(だけ)がそう信じて疑わない、いわば団結という二文字を保ってきた経験があります。
まるで、修学旅行の土産物かなにか刻まれた定番のような一言ですが、卒業するまでのつい一ヶ月前までは彼は確かにその経験を誇りと信じてきました。

しかし、そんな皆さんに対してまでも「○○チャン」と仕掛けちゃいましょう、というわけです。

まったく無防備な状態で、いきなり

「ねー、○○チャン」

そう言われた本人のショックたるや想像に難くないのですが、この青天の霹靂状態に当のお相手である彼、つまり元黒詰襟を突き落としてしまう…、叩き込んでしまう…、「チャン」にはそんな魔力が潜んでいるはずです。

「A4でコピーね、いのくまチャン。両面で…、たのむよ!」
「オッす」
「押忍は禁句、いのくまチャン」
「…ッ、オッす…です」
「じゃなくてぇー、ハイッでいいの。いい? い・の・く・ま・チャン」
「っオ…、っとっとっと…、の…ハイッ」

新入りのいのくまチャンも、ずいぶん勝手が違って戸惑っている様子ですが、これで結構です。
もう二、三回、オフィスにおける何気ない言葉のラリーが成立しさえすれば、あなたといのくまチャンの関係、つまりオフィスにおける位置関係はあなたの意のまま、安心です。磐石というものです。
年齢あるいは学歴なんていう屁でもないもの、まして間違っても男だ女だ性別なんてものに縛られることは今後に一切ありません。皆無です。

この会話について、いろいろなご意見がおありかと思いますが、決して新入りさんをいじめようとしているのではありません。

ビジネスマナー講座のイントラさんには烈火のごとくお目玉頂戴の超ヒンシュク・トークのサンプルなのでしょう。
が、しかし実践面ではこれでいいのです。

ビジネスマナー講座は初期の新入りさんにこそ受講させられるべきもの、それ以降は実践、体得あるのみ。さすれば、講学上のビジネスマナーが先の例に変遷することを誰の手をもってしても、もはや阻止することは不可能でしょう。

少々脱線しましたが、この言葉のラリーはあなた自身を鍛錬している、そうお考えください。
いのくまチャンとのビジネスにおける円滑な人間関係形成のために。

だって、無駄に先輩風を吹かせるより、いち早くいのくまチャンと同じ目の高さに腰を折り、あるいは、膝を折ることができる、そんな柔軟性こそ今後あなたがビジネス社会に君臨していくための、必要条件として求められているのです。

「おい、いのくま君」

そうやるんだったら、最初っから

「ネー、いのくまチャン」

こちらの方が、数段優れているといえます。
そう思いません?


【ケーススタディー その2】

社内における暫定的な上下関係が同格の場合で考えます。

同格同士の場合は、お互いの親密度を確認し合うことに加えて、彼らに共通した敵対関係にある第三者に対するアピールという点を見逃すことはできません。

「たけだチャン、どう最近…ゴルフのほうは?」
「パットがいまいち…、ブレてんだよね。それはそうと、お噂は聞いてるよ。例の美人レッスンプロの話…。手取り足取りだっていうじゃないか…、うえすぎチャン」

課長同士のたわいもないゴルフ談義ですが、たけだチャンとうえすぎチャン、この二つの言葉を聞いた、おだ課長さんの心中には穏やかざるものがあるはずです。

ゴルフを嗜まないおだ課長さんですが、あのチャン付け…たけだチャン・うえすぎチャンは妙に耳に残ってしまうに決まっています。


【ケーススタディー その3】

先の新入りさんの場合がさらに発展すると、次のようになります。

「いのくまチャン、僕があげたアイアンの調子はどう?」
「バッチリですよ。さすがうえすぎ課長はお目が高い!」

と、まあこんなもんで話は問題なくまとまります。

このやり取りの中でも、双方の親密度の確認はもちろん、それを第三者にアピールすること、そして
「俺に従っていさえすれば、悪いようにしないゾっ」
という、うえすぎ課長さんの気持ちを「チャン」に十分に込めることができます。


【ケーススタディー その4】

次に、親密度効果の亜流として、取引業者さんなどに対して恐縮至極の頼みごとがある場合で考えます。

「こっちも手違いあったんだけど、なんとか納期のほうは予定どおりでいきたいんだけどさ、あべチャン」
「カンベンしてくださいよ」
「そこをなんとか、ねっ。あべチャン…、次の仕事のこともあるし…」
「こんなときだけ、あべチャンなんちゃって。今回だけですよ」

この場合の「あべチャン」は、本当の意味で親密度の加減を調整するのではなく、あくまでも擬似的な使い方です。

それが証拠に、業者のあべサンもちゃんと、そのことを見抜いています。

紆余曲折はあるものの無理難題が受け容れられたなら、それ以降の会話の中では「あべサン」という呼び方に直しても、なんら不自然ではありません。

むしろ、そうするほうが今後の商売上の展開を考えたときに有効かもしれません。

発注者であるとはいっても、本来ならば、こちら側のミスをお詫びしなければならないところですが、そこんところを謝るでもなく曖昧にして、擬似親密感を押し売りする。

「チャン」に頼って波風を立てずに、発注者の意向を通してしまうというやり方です。


【ケーススタディー その5】

「明日のプロジェクト会議の提案書だけど、よろしく頼むよ。ざわチャン」
「ご安心ください。課長」
「やー、助かるよ。ざわチャンがサポートしてくれないと、会議は踊るばっかりで…。全然前に進まないんだよ。いやぁー助かる!」

さて、このケースですが、先ほどまでのケースと多少なりとも雰囲気が異なることにお気付きの方は、中間管理職歴の長いベテランの方とお見受けいたします。

そうです。
中途採用ではありますが、会社の中ではだれもが仕事の能力を認めざるを得ない、そんな「おざわ君」に対して、いまや崩壊し死語と化した終身雇用制度の人柱的存在でもある「ふくだ課長」さんが頼み事をする場合のパターンです。

チャン付けをすることのほかに、念には念を入れて「おざわチャン」を「ざわチャン」と呼び方を縮めているところからも、課長さんのただならぬ心中をうかがい知ることができます。

おざわ君の入社以来、仕事の内容やスピード、上司の評価、客先の評判、どれをとっても

「おざわには、逆立ちをしても絶対にかなわない…」

そう感じて、唇を噛むことが増えてしまった「ふくだ課長」です。

会社における暫定的な地位は課長の方が上にもかかわらず、得体の知れない「おびえ」と「遠慮」から、パブロフの犬的にチャン付けをしてしまう、ある意味でビジネスマンの後天的学習により会得した術に依拠する、悲しいチャン付けの典型的な行為こそが、さわチャンとふくだ課長さんの潤滑油になっているのです。
そのことは、いまさら申し上げるまでもありませんね。


これまで一般的なビジネス社会におけるチャン付けの各種パターンを追ってきましたが、テレビ業界におけるチャン付けについても考察しておきましょう。

万事につけて先取り、先取りの当業界では、かなり以前からこのチャン付け行為を行っておりました。
さすがに先見の明あってか、ここで話題にしているパターンを実践していた、いわばチャン付けのパイオニア的存在といえば、間違いなくテレビ業界なのです。

「さとチャン、いい本を書いてくんないと、オレもう自殺もんよ」
「こんチャンの演出は神がかり…。視聴率でも奇跡を起こしてチョウダイッ!」

それでも足りなきゃ、「先生」だの「巨匠」の飛び道具の一言もご登場を願うことになります。

「先生、少しはこっちにも台本を回してよ」
「(おっと、先生ってオレのこと?)ゴメン、ゴメン、寝る暇もなくってさ!」

「アッそうー。売れっ子だからなー、巨匠は!」
「……(今度はアッという間に、巨匠ってかよ~)」

チャンは言うに及ばず、「センセイ」や「キョショウ」のオンパレード。

局で石を投げりゃ、各分野にセグメントされたセンセイかキョショウに必ず当たるといったところです。

いやはや、十年は先を行くと言われる業界のことですから、近い将来には銀座や赤坂のクラブ以外でも、「にわかシャチョウ」や「にわかカイチョウ」が蔓延することになるのでしょうか。

そこまでいかないうちに、いや、テレビ業界のようにならないうちに、ちゃんとチャン付けで人間関係を正常化しておこうではありませんか。


というわけで、役職抜きの「サンづけ運動」や、かつての「ノーネクタイ運動」改め、今なら差し詰め「通年クールビズ運動」を真剣に展開するくらいなら、同じ意識レベルで「チャン付け運動」を導入してみたらいかがですか?

人事部や総務部のみなさん。大真面目に考えてみてください。
効果テキメンだと思いますよ。


【注意事項】

これまでの「ビジネスシーンにおける円滑な人間関係形成のために」というテーマについて、若干の注意事項を加えます。
それは、女性社員に対する「チャンづけ」には、また全然異なった意味があります…ということ。
くれぐれも使用上の注意を守ってご利用くださいますよう、ご案内します。

使用上の注意については、紙幅の関係上、今日ここで申し述べるに至りませんが、社歴3年以上の常識的な会社人間の方でしたら、何となく勘所を押さえていらっしゃるはずです。
「チャンづけなんて、女・子供のものだから…」
などと軽く考えて誤用すると、えらい目に遭いますから、かえすがえすもご注意ください。

いわゆる、ハラスメントの問題です。
会社においては、セクシュアル…はもちろんのこと、パワー…も関係します。

行き掛かり上たまたまの上役が、単なる会社という閉鎖社会における立場上の脆弱な位置を借りて、コミュニケーションとかをお題目に、あまり馴れ馴れしく女性社員に接しないことです。
当の女性社員が「キモイ」とお感じになられたその瞬間に、
「セクシュアル&パワー」
最強のハラスメント・タッグ。
これに該当する確率は、橋下さんの2万パーセントを軽く超えます。

お大事に。


<おしまい>