2008年1月29日火曜日

中小自治体病院の生きる道は 【朝日新聞 医を創る 山梨から】より

朝日新聞に昨年末に短期集中連載された記事を見つけました。
隣の山梨県の事例になりますが、考えさせられるところは共通です。

思えば、当地南信州では限界集落がささやかれ、高齢化の進行は医療にとって深刻な問題です。
公共交通機関の存続問題とも相まって、
「医者に通えんくなったら、村を出にゃならん」
お年寄りの切実な声が聞こえてきそうです。

一方で、患者を受け入れる側の病院にとってみれば、医師の確保を始めとする様々な経営上の問題など、課題が山積です。

この先、私たちが住み慣れた地域で安心して暮らしていけるようにするには、どうしたらいいのでしょう。

短期集中5回連載の第1回です。
ご関心のある方は、次回以降を次のリンクから参考になさって下さい。

 ⇒ 医を創る 山梨から

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【医を創る 山梨から】

(1)中小自治体病院の生きる道は

朝日新聞 2007年12月06日

自治体の病院が今、分水嶺(ぶん・すい・れい)に立たされている。総務省が経営健全化のガイドラインを示し、その指標を割ると病床の削減や診療所への転換を促されるようになるためだ。横内正明知事は10月の県議会で、08年に「公立病院再編計画」づくりに取り組む方針を示した。医師の確保難に人口減と高齢化、複雑な診療報酬体系、さらには08年度決算から適用される市町村会計との連結決算……。再編の前に課題は山積している。地域にとって必要な医療とは何か。自治体病院の明日を考えてみた。

 6人部屋に2人、4人部屋に1人……。JR身延線・市川大門駅のすぐ横にある市川三郷町立病院。
100ある入院ベッドのうち今、半数近くが空いている。人気がないわけではない。医師が不足して、入院患者を受け入れられないのだ。

■入院希望断る

 病床利用率は昨年度が53・7%。5年前には84%あった。この間、常勤医は16人から10人へ。今年はさらに1人減った。

 入院患者の4分の1以上を占めていた整形外科は、05年に2人の医師が山梨大に戻った後、補充がなく、常勤医は不在となった。高齢化が進む地域ではニーズは高い。だが非常勤医師による週2回の診療では入院に十分な対応ができない。内科医も一時は5人いたのが2人になった。

 「入院の希望は多いが、断って他の病院を紹介せざるをえない」。河野哲夫院長は唇をかむ。

 新人医師に臨床研修を義務づけた04年度から、県内の病院で医師不足が目立ち始めた。研修先と勤め先を都市部の大病院に求める傾向が顕在化し、各病院に医師を派遣する機能を担ってきた大学病院でさえ、医師不足に悩むようになってきたためだ。

 山梨大出身の河野院長も、大学に派遣を要請しているが、色よい返事はもらえない。病院は04年度から赤字に転落し、町の一般会計から年1億4千万円を繰り入れる事態となった。

■指針で見直し

 町の財政は苦しい。収入に占める借金返済の割合を示す実質公債費比率が18%を超え、「要注意」の水準にまで悪化している。久保真一町長は「住民の福祉を考えれば、税金投入もある程度は覚悟が必要だ」としながらも、「ガイドラインが『公立病院は黒字に』と言っている以上、努力しないと……」と顔を曇らせる。

 ガイドラインとは、総務省が示す公立病院改革の指針。赤字だったり、病床利用率が70%を下回ったりした場合に、規模の縮小などの見直しを迫るものだ。

 「医師さえいれば、すぐにも黒字化するし、70%もクリアできる」。夏から毎月、相談を重ねるようになった院長と町長は、口をそろえる。だが医師不足の打開策は見当たらない。

 中央市の山梨大病院まで車で15分程度。町立で病院を維持する必要はあるのか、という指摘もないわけではない。

 これに対しては、「高齢者の利便性を考えた時、余裕を持ったベッド数は必要」というのが町と病院の見解だ。

◆地域医療を支える意気込み◆

 冬の日差しが、正午過ぎには山に遮られる。谷間の集落、早川町の新倉地区に三共診療所がある。週2回、医師と看護師、事務職員の3人が出張診療にやってくる。ふもとの国道沿い、身延町飯富にある飯富病院の医療チームだ。

 高血圧、糖尿病、腰痛にガンの術後管理……。朝比奈利明副院長が当番だった11月のある日、一番若い患者は73歳。最高齢は92歳だった。

 飯富病院は、早川町と身延町でつくる組合が運営し、87床ある。常勤医は市川三郷病院より少ない7人だが、病床利用率はほぼ9割に達し、経営的には黒字だ。

 長田忠孝院長は「どんな患者も断らず、まずは診る。地域医療を支える意気込みでやっている結果だ」と話す。無医地区につくられた病院。出張診療所が12カ所、それに往診もあるので医師の負担は小さくない。医師には一定の「条件」が求められている。

 「専門分野以外を敬遠するようでは向いていない」というのだ。患者の大半が高齢者。都会の大病院と同じような医療は求められていない。

 長田院長は目の前に迫る「大敵」にも頭を痛めている。加速する過疎の波だ。

 「今の診療圏は2万人程度。もっと広げていかないと、いずれ行き詰まる」

■6病院で会議

 峡南地域の全6病院が夏以降、院長会議を持つようになった。市川三郷病院から車で5分余りの社会保険鰍沢病院に、私立病院も加わる。

 「経営の話までは踏み込まないが、連携や機能分担のアイデアはいろいろと出る」と中島育昌・鰍沢病院長。共通の危機意識に迫られて、地域を支える医師たちは自治体の枠を超えて手探りを始めている。(この連載は吉田晋、岩崎賢一が担当します)
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<おしまい>